からくり通信
2000年1月1日
第5号

からくり創作研究会の展示会の日程等が決まりました。
からくり創作研究会 第1回新作発表会
at 新宿 伊勢丹
2000年3月23日(木)〜29日(水)
からくり創作研究会の記念すべき第1回目の展示会です。
新作を準備し、皆様のご来場を心からお待ち申し上げております。

●新しいからくりを作っています

さて、からくり創作研究会は、これまでの講演会や展示会で得たアイディアを元に、研究も続けながら、新しいからくり作品の考案、製作にとりかかっています。10月21日には、ビデオを用いてイギリスのからくりから学ぶと同時に、亀井氏の秘密箱を発展させるアイディアを元に話し合いました。11月16日には、遠藤裕氏が自身の作品を前に、主にデザインの角度から講演を行いました。

●ユーモアたっぷりのイギリスのからくり

 10月21日は、前半はビデオを見ながら、イギリスのからくりに学びました。実は今年の夏、東京で「ロンドン・からくり工房展」が開催されました。ビデオはこの時に買ってきたものです。この展示会は、ロンドンの「キャバレー・メカニカル・シアター」から、30点のからくりがやってきて開かれたもので、写真はこの展示会のポスターです。これは、同じからくりでも、ハンドルを回すと歯車やカム等の仕掛けが動いて、人や動物の人形たちが面白い動きをするという「からくり人形」に近いものです。英語ではこのからくりのことを「オートマタ」と言うそうです。ビデオにはユーモアたっぷりのオートマタが沢山登場しました。私は、羊が出てくるからくりが一番印象に残りました。それは「人間が羊の毛を刈る」という場面にユーモアを加えたもので、逆に羊が大きなはさみで人間の首を斬ろうとしています。チョキン、チョキンと。それを人間はぎりぎりの所で交わします。でもしばらくそれを繰り返すと、フッとタイミングがずれて、何と首が斬られてしまいます。そして首はポロンと…。これは少々ブラックですが、凄く印象的でした。その他、面白い動きの作品が沢山紹介されました。そして研究会では、このビデオを元に、自分たちの作品にどう参考にできるかについて意見を出し合いました。
 後半では、亀井明夫氏の秘密箱を発展させるための二つのアイデイアをもとに、意見を出し合いました。その提案の一つは、秘密箱のあるしかけを単純化し、それによって動きをより自由に変化させることができる、というものでした。秘密箱の世界には初めて提案されるアイディアで「こんな動きもできる」といった意見が次々と出され、多いに盛り上がりました。どう作品につながるかが楽しみなテーマの一つとなりました。

5-rondon.jpg (7488 バイト)

ロンドン・からくり工房展のポスター



●次々と発展するデザイン

 11月16日には、遠藤裕氏が講師を担当し、自身の作品を前に主にデザインをテーマに講演しました。「立体に一筆書きの要領でひもをかけていく」という独特の手法を使いながら、簡単な形からより複雑なものへ、また、赤とんぼや雪などの季節をテーマにした作品へと、次々と作品が発展してきた流れを分かりやすく説明してくれました。また、デザインの発展を考える際の、発想のポイント等も話してくれました。

5-endou.jpg (10001 バイト)

遠藤氏の作品

         
 また、最後に遠藤氏は「からくりを作ってみたんだけど」と言って、数個の試作品を取り出しました。それが、何とも言えず心をくすぐる形をしているではありませんか!今日、皆さんに紹介できないのが残念です。正直、私は「これやられた」と思いました。製品になる日が楽しみになってきたのは、きっと私だけではないはずです。
 この講演の後には、その講演の内容や試作品をもとに、みんなで意見を出し合いました。さらにこの日は、他にも数名が作品や試作品を持ち寄り、それらをもとに、どう楽しいからくりを作るかについて意見を出し合いました。


からくり通信
1999年10月21日
第4号

 今年の夏、研究会が主催して「わくわく・からくり・大集合」展が開催され、大成功をおさめました。今回はこの展示会の様子を紹介します。

●からくり作品が大集合

 8月13日から15日までの3日間、小田原市のマロニエを会場に、からくり創作研究会が主催して「わくわく・からくり・大集合」展が開催されました。これは、これまで小田原・箱根地方で作られてきたからくり製品を一堂に集めて、さらに、現在の職人達が作っているからくり製品を多数準備して開いた展示会です。今回のように、からくり製品ばかりを集めた展示会は初めての試みで、現在ではなかなか見ることの出来ない珍しい製品も多数陳列され、非常に貴重な企画となりました。

●展示品は約400点と盛りだくさん

今回展示されたからくり製品は、神奈川県工芸技術センター、箱根町立郷土資料館、箱根観光物産館などで、資料などとして大切に保存されてきたものを特別に借りてきたものです。展示品の数は約400点にのぼりました。沖山英夫氏の数多くの秘密箱をはじめ、54回秘密箱、豆秘密と呼ばれる小さな秘密箱など、様々に工夫されて作り続けられてきた多様な秘密箱。鈴木堅次氏の角型三種や、寄木の技術と秘密箱の動きを組み合わせた夢球。二宮義之氏のからくり箪笥や仕掛けのたくさん入った荷箱。タバコボックスでは、吹き上げと呼ばれるタバコがせり上がってくる箱、犬が煙草をくわえて出てくる箱、オルゴールの動力と組み合わせて小鳥が向きを変えてタバコをくわえて来て差し出してくれる箱、そしてケネディー・タバコボックスなど。江戸時代後期に作られたと言われる、今で言う旅行セットのような機能がからくりのように詰まった旅枕、家やビルや動物を形どった様々な貯金箱、独特の動きをする類似と呼ばれる箱、山中組木の動物組木シリーズ、タバコが消えるトリック箱に加えて、開けるとヘビが飛び出してくるビックリ箱のような冗談の箱。その他、ここでは紹介しきれない数多くの貴重な作品が展示されました。

●からくりドア、からくり家具が登場

4-kagu.jpg (9498 バイト)

からくり家具が登場



会場となったマロニエ1階のエントランスホールには、からくり安兵衛の亀井明夫氏のからくりドア、からくり家具が並びました。はじめて見るからくりドアやからくり家具にお客さんは大喜び、次々と挑戦しては珍しいユーモアたっぷりのからくりに、子どもから大人まで大はしゃぎしていました。展示会を知らずにマロニエを訪れた方も、いつもと違う雰囲気に興味をひかれ、ドアに挑戦していました。1階のからくり家具のコーナーを担当した今回の展示会のあるスタッフは「お客さんが1階のからくり家具で喜んじゃって、なかなか次の3階の会場に進んでくれないんだよ!」と、嬉しい悩みを話していました。

●チャレンジコーナーは人でいっぱい

 今回の展示会では、来場者の皆さんに実際にからくりにさわってもらおうと、二宮義之氏、亀井明夫氏、遠藤裕氏、佐藤秀人氏らのからくり作品を多数チャレンジコーナーとして用意していました。その結果、チャレンジコーナーはスタッフの予想を越えて一日中お客さんでいっぱいになりました。「子どもが喜ぶから」と子ども連れで来場したある若いお母さんは、からくりを開ける時のわくわく感に自分がすっかりはまって、子どものことを忘れてしまったように何時間も挑戦していました。またある近所から来たお客さんは、1日目に来たのに次の日も来たくなって、とうとう3日間通いつづけてしまったと話していました。遠藤氏の作品に興味をもったある方が、研究会のメンバーに「これは売ってないんですか?」と聞いてくる場面もありました。また、遠くから来てくれた「からくりが好き」というあるお客さんは「もっと僕の住んでいる近くでも展示会をやってほしい」と言っていました。

●創作意欲がわいてきました

 展示会は大成功に終わりました。今回の展示会を通して、研究会のメンバーはたくさんの来場者の皆さんと接してきました。そして、たくさんのお客さんが、からくりを見たり触ったりして、本当に喜んでいる姿を見る度に「頑張って準備してよかった」と思うと同時に、本当に多くの人がからくりに興味を持っていることを再確認し、頑張って新しいからくり作品を作ろう、という思いを強くしていたようです。私たちは、この展示会をステップに、新しいからくりの創作に挑戦していきます。

  (岩原)


からくり通信
1999年10月21日
第3号

第3号では、引き続き講演回の様子を紹介します。

●第3回 色々な科学的おもちゃ(7月13日)
講師は科学的おもちゃのコレクターである高島直昭さん。

 はじめに高島さんは、たくさんの科学的おもちゃを紹介してくれました。有名な水飲み鳥に始まり、鉛を仕込んだ数十メートルも飛ぶと言う竹とんぼ、ボトルを押す向きによって浮き沈みする浮沈子(ふちんし)、プラスチックの小さな歩く火星人のおもちゃ、回転させると一定方向に回転の向きを変えるラトルバック、人や蛇の形の金属板の周りを面白く回る磁石ゴマなど、珍しいものばかりでした。

3-tori.jpg (6411 バイト)

水飲み鳥


 その中でも、何と言っても火星人がいい感じをしていました。火星人には長い糸がついていて、その先には重りがついています。重りを机の端から垂らすと、火星人はノコノコと体を揺らしながら歩き出します。その姿が何ともいじらしいのです!しかも、なぜ「火星人」なのかは全く不明!(誰か知っていたら教えて)。極めつけに、机の端まで来ると、ちゃんと止まるのです。「落ちる!」と思って、つい手を差し出したのですが、しっかりと自分で止まるではないですか。みんなの前でだまされてしまいました。まるで、火星人から「お前の助けなんていらんわい」と笑われているようでした。

3-kaseijinn.jpg (4411 バイト)

ノコノコ歩く「火星人?」


さて、それから高島さんは、新しいからくりを考え出す助けとして「アイディアをはばむ6つの関所」というテーマでお話してくれました。また、この講演会では日本の昔のおもちゃも登場しましたが、これらの多くが、若い職人が初めて見るものだったことも貴重でした。今回の講演会を通して、意外性を持つ珍しいおもちゃに多数触れることが出来たのは、研究会にとって大きな収穫でした。

●第4回 幾何学おもちゃのいろいろ(9月16日)
講師は、数学の先生であり動く幾何学おもちゃを作っている西原明さん。

3-deruta.jpg (6656 バイト)

デルタスター(正四面体)



 講師の西原さんはまず、ご自身のオリジナル作品を紹介してくれました。多面体が平面や直線などにあっという間に形を変えるデルタスター、ドーナツの形が滑らかに球状に変化するトーラスマジック、プラスチック板を組み合わせた模様が一斉に動いて別の模様になるタイルマジックなどです。こういう珍しいものを見る時には、つい「どうしてそうなるの?」とか考えてしまうのですが、西原さんの作品は動きがとってもきれいだったので、無邪気に楽しんでしまいました。

3-torasu.jpg (6694 バイト)

トーラスマジック


 次に西原さんは、他の作家の作品を紹介してくれました。ちょっと手で動かすだけで、多面体から別の多面体へと形を変える柳瀬順一(やなのせじゅんいち)さんのJuno's Spinner、円板を2つつなげたような変わった形をしているのに滑らかに転がり続けるtwo-circle-roller(オロイド)、クリントン大統領も遊んでいたと言う、立体が伸縮するホーバーマン・スフィアーなど、面白いものばか りでした。そして実習として、竹ひごとシリコンチューブを使って、みんなで西原さんのデルタスターを作りました。今回の講演会も、作品作りの大きなヒントになったと思います。
 また、西原さんは、他の作家の作品の発展版のような作品も多数作っていました。ある作家の作品を紹介した後、西原さんは「実は、この作品、面白いと思いまして…」と言って、凄い作品を紹介してくれました。そして次の作家の作品を紹介した後、西原さんは再び続けました。「実は、この作品も面白いと思いまして…」。メンバーが「また!」と驚いていると、更に別の紹介の後、西原さん再びこう言うのでした。「実は…」後から後か
らとんでもない作品が出てきます。本当にこの方も、またまたとんでもない方でした。

●あとがき

 第3号は以上です。第4号では、夏の展示会の様子を紹介します。     (岩原)


からくり通信
1999年10月21日
第2号

 研究会では、まず講演会を開いて学習することにしました。講演会は月に1回のペースで、からくりの創作に関わる様々な分野の専門家を招いてきました。これまで4回の講演会を開きましたが、どれも素敵な講演でした。その様子をちょっと紹介します。

●第1回 ノブさんが世界のパズルを紹介(6月1日)
講師は世界的なパズルコレクター・デザイナーである芦ヶ原伸之さん。

2-koutya.jpg (11393 バイト)

お札が隠せる紅茶入れ


 パズルの世界はからくりの世界に通じるところがあります。ここから学ばない手はない、というわけで、世界的なパズルコレクター・デザイナーである芦ヶ原伸之さん、通称ノブさんをお呼びしました。さて、初回ということでメンバーは少し緊張気味。しかし、さすがノブさんだけは違いました。何と最初に切り出した言葉は「パズル人生を謳歌しております!」こんな自己紹介は聞いたことがありませんでした!そしてノブさんは、いっぱいに膨らんだカバンから珍しいパズルを次々と取り出して紹介、メンバーをあっという間にパズルの世界へとひき込んでいきました。注ぎ口のないポット、ひきだしの隙間が見えない丸い箱、そのまま傾けるとビールがこぼれるジョッキ、転がすと各部品にばらばらになる木のパズル、遠心力で解くパズル、お札が隠せる紅茶入れなど実に多彩でした。またノブさんは、同じく世界的なパズルコレクターであるアメリカのジェリー・スローカムさんが編集したパズルのスライドを見せてくれました。ここでは、研究会の会員でもある二宮義之さんが作成した五重塔の組木なども登場しました。
 そんなわけで、目の前のパズルに夢中になっている内に、講演会はあっという間に終わりました。メンバーには大いに刺激になったようです。しかし、パズルも凄かったのですが、それ以上に、ノブさんのパズルへの入れ込みようが凄いと思いました。本当にとんでもない方でした。とにかく、第1回はとってもいい講演会でした。

2-barabara.jpg (9120 バイト)

転がすとバラバラになります



●第2回 折り紙で作る多面体の世界(6月24日)
講師は折り紙作家の川村みゆきさん。著書に「多面体の折紙」。

 第2回は、視点を変えて多面体について学びました。講師の川村さんは、2歳の頃から折り紙を始めたそうです。著書「多面体の折紙」は、色々な多面体を折り紙で折ってしまおうという本です。ちなみに出版社は日本評論社、2900円(税別)です。
 さて講演の方ですが、前半川村さんは、どんな多面体があるのかの紹介から始め、立体同士の関係やその構成などを丁寧に説明してくれました。後半は、実際に折り紙を使って、みんなで基本的な立体を5つ作るのに挑戦しました。メンバーは「折り紙でこんな形が出来るんだ!」とみんな驚いていました。多面体には美しい形が沢山あることが分かりました。また、正8面体を見た時には、映画「天空の城ラピュタ」(宮崎駿監督)に出てきた「飛行石」がこんな形をしていなかったか、などと思い出してしまいました。ともかく、丸っこい双対(そうつい)とか、とがった星型とか、かわいい形が沢山あることを知っただけで嬉しくなってしまいました。

2-origami.jpg (5230 バイト)

正20面体の折り紙


 それから川村さんですが、この人も相当の人でした。講演中、川村さんが「折り紙でこの立体を作った感じが何とも言えないんですよねぇ〜!」と一人悦に入った瞬間があったのですが、その時彼女の目は、少女マンガのようにキラキラと輝いていました。
 そんなわけで、第2回目も非常にいい講演会でした。今後のからくり作品への応用が楽しみです。しかし、木で多様な立体を作るには高い技術が必要です。でもそこは、逆に職人の腕の見せ所でもあります。

2-hosigata.jpg (6277 バイト)

20,12面体の第七の星形



●あとがき

 第2号は以上です。第3号では、引き続き講演会の様子を紹介します。    (岩原)


からくり通信 
1999年10月21日
第1号

●からくりを作る研究会ができました

 今年の5月28日、新しいからくりを創ろうと、からくり創作研究会(以下、研究会)が発足しました。研究会は、箱根物産連合会の会長や亀井明夫氏らが呼びかけたもので、主に小田原地方の木工職人十数人がメンバーとなっています。もともと小田原・箱根地方は、お土産品を中心に木工が盛んで、秘密箱や組木などを作る伝統的な高い木工技術がたくさん集まっています。そしてこの産業の中で、例えば箱の開け方を楽しむ秘密箱のように、遊び心やからくりの心がいっぱいの作品が長い間作られてきています。つまりこの地方には、技術と遊びの両方があります。実はこれは、世界でもこの地方にしかない特徴で、新しいからくりを創るのには絶好の条件と言えます。技術的な条件が無ければ、そもそも質の高い作品を作ることが出来ません。また、遊び心による作品が作られてきているという条件は、新しいからくりを作る基礎となるものです。これまでに作られてきた数多くの作品からヒントを得たり、それをさらに発展させたりするのにも非常に有利な条件です。研究会は、こうした条件を生かして新しいからくり作品を作っていきます。

●地域産業の発展を目指します

 また、私たちは、新しいからくり作品を生み出すことは、小田原・箱根地方の産業の発展にもつながると考えています。現在、この地方ではたくさんの木工製品が作られています。そしてこの産業は「遊び心による作品が作られている」という、またとない特徴をもっています。この中で新しいからくり作品を生み出すことは、この特徴をさらに伸ばしていくことでもあります。私たちは、新しいからくり作品を生み出すことを通じて、この地域の産業を「遊び」という側面から発展させていこうと考えています。

1-tennjikai.jpg (9237 バイト)

展示会の様子(準備中)



●学習会から展示会、そして創作へ

 発足以来、私たちは、新しいからくりの創作に向けて様々な活動を進めてきました。まずは学習から始めようと、からくりの創作に関わる様々な分野の専門家を招いて合計4回の講演会を開きました。夏には、これまで小田原・箱根地方で作られてきたからくり製品を一堂に集めて「わくわく・からくり・大集合」展を開催しました。展示会は大成功、私たちにとっても作品作りの大きなヒントになりました。そしてこの秋以降、いよいよ私たちは、新しいからくりの創作に挑戦していきます。

●新作発表会を全国各地で

また、来年春以降には、全国のデパートやショップでの「新作発表会」もすでに計画しています。将来的には、海外でのからくり作品の巡回展示も視野に入れつつ、小田原・箱根地方を世界に向けての情報発信基地として確立していこうと考えています。

●あとがき

 第1号は以上です。第2号以降では、専門家を講師に招いた講演会の様子を紹介していきます。
  (岩原)